アーキテクチャの紹介

本システムは、天候が事業収益に与える影響を「軽減可能なリスク」に変えるための、 金融的手法による分析基盤です。Web 経由の操作だけで、ヘッジ手法に応じたプライシングの結果を 完全自動で可視化できるよう、フロントエンドからバックエンドまでを統合的に運用しています。

本システムが提供するのは、天候リスクに対するヘッジコストの可視化・数値化です。以下の画面はすべてその内部基盤です。 掲載している画像のうち、契約・ポジションに関わる数値はすべてデモ用の仮想データであり、 実在の取引先・契約・運用数値は一切含まれていません(気象・市場のデータは 公表されている実データです)。

0アーキテクチャ

  • フロントエンドは React、バックエンドは Rust で実装。PostgreSQL と併せて、 モダンなデザインと堅牢かつ高速な処理・レスポンスを実現

注釈 — React: Meta 社が開発した JavaScript ライブラリ。Web アプリの UI 構築で広く採用されている。/ Rust: 安全性・処理速度・並行処理能力に優れ、C++ に代わる言語として広く利用されている。

1プライシング

  • 天候デリバティブのインターバンク市場で中心的なマーケットメイカーであった三井物産での 実務経験に基づき、より精緻なフェアバリュー算出を目的として独自に改良・発展させた メソドロジーで構成
  • 気象庁の公式観測データ(全国1,000超の地点・数十年規模の系列)に基づく、 指数型スキームの理論価格の算定
  • 米国海洋大気庁(NOAA)が季節予測運用に採用する気候平年値の扱い(Optimal Climate Normals)と整合する設計
  • 気候の非定常性(長期トレンド・年々変動)を明示的に扱う統計モデリングと、 頑健統計による外れ値耐性の確保
  • 複数の気候仮説をモデル平均化する予測結合アプローチを採用。その重み構造は 状態空間モデル(カルマンフィルター)の定常近似として理論的に裏付けられ、 実データの前向き検証で選定・凍結
  • モンテカルロ・シミュレーションによる損益分布の評価と、 分布の裾(テールリスク)を踏まえた保守的な価格設計
  • 複数地点・複数リスクの同時評価における依存構造(コピュラ)の考慮
プライシング画面(試算条件の指定)
試算条件の指定(デモ用の仮想データ)
契約条件から描かれるペイオフ形状のグラフ
契約条件から一意に描かれるペイオフ形状(デモ用の仮想データ)

参考文献

  1. 1.Hyndman, R. J. and G. Athanasopoulos (2021), Forecasting: Principles and Practice, 3rd ed., OTexts. https://otexts.com/fpp3/
  2. 2.Durbin, J. and S. J. Koopman (2012), Time Series Analysis by State Space Methods, 2nd ed., Oxford University Press.
  3. 3.Bates, J. M. and C. W. J. Granger (1969), “The Combination of Forecasts,” Operational Research Quarterly, 20(4), 451–468.
  4. 4.Clemen, R. T. (1989), “Combining Forecasts: A Review and Annotated Bibliography,” International Journal of Forecasting, 5(4), 559–583.
  5. 5.Livezey, R. E., K. Y. Vinnikov, M. M. Timofeyeva, R. Tinker and H. M. van den Dool (2007), “Estimation and Extrapolation of Climate Normals and Climatic Trends,” Journal of Applied Meteorology and Climatology, 46(11), 1759–1776.
  6. 6.Hull, J. C. (2021), Options, Futures, and Other Derivatives, 11th ed., Pearson.
  7. 7.広瀬尚志 監修・天崎裕介ほか著 (2003)『天候デリバティブのすべて――金融工学の応用と実践』東京電機大学出版局.

2観測データ基盤

  • 気象庁公式値のみによる観測系列の一元管理(独自の推計値・補間値は不使用)
  • 観測地点の移転に伴う系列の不連続への、気象庁公式補正値による均質化(詳細はデータの出所と扱いに記載)
  • 平年値は気象庁の公式平年値(1991–2020年)を採用
  • 欠測は欠測のまま表示(埋めない・作らないの原則)
観測データ画面(地点・要素・粒度で見る)
観測値の一覧(気象庁公式観測値)

3実測・予報・平年の対比

  • 対象地点の実測値・予報値・平年値の3値同時表示による現況把握
  • 予報は発表時刻つきで管理(「いつ時点で何が分かっていたか」の厳密な取り扱い)
  • 気象庁の季節予報(1か月・3か月・暖候期/寒候期)の継続的なアーカイブ
実測・予報・平年の3値を対比する画面
実測・予報・平年の3値対比(気象庁公式値)
長期予報コメントを原文のまま表示する画面
気象庁の長期予報コメント(原文のまま)

4シナリオ分析

  • 直近の予報を反映した名前付きシナリオによる、評価額の感応度の把握
  • 基準評価とシナリオ評価の並記(両者を混在させない設計)

5日次時価評価

  • 評価対象の日次時価評価(mark-to-market)と、追記型の評価履歴
  • 任意の過去時点の評価を同じ材料で再現できる as-of 設計(監査証跡としての再現可能性)
  • パラメータ改定・観測値の確定訂正が評価に与えた影響の事後追跡

6リスク管理・ヘッジ機能

  • 天候デリバティブのブックに紐づく市場ヘッジ(電力・原油等の上場銘柄)の執行と持ち高を 一元管理する専用ブロッター
  • 恒常的(パッシブ)ヘッジと、事前に定義した発動条件に基づくルールベースの株式オーバーレイ (Equity Overlay)を分離して扱う多層構成
  • オーバーレイは裁量を排したルールベース設計= 発動・非発動を問わず全判定を記帳し、 検証可能な実績として蓄積(検証運用を先行)
  • ヘッジ損益とブック損益の突合を前提とした台帳設計= ヘッジ効果の事後検証を可能にする 追記専用の記帳
ヘッジ執行の台帳と持ち高の画面
ヘッジ執行の台帳と持ち高(銘柄は実在の上場銘柄・数量と価格はデモ用の作り物)
市場データ(電力・原油)の参照画面
市場データの参照(公開データ・表示専用)

7運用品質の自動監視

  • データ鮮度の契約化(「どのデータが・いつまでに・どこまで来ているべきか」の機械判定)
  • 夜間バッチ処理の自己申告台帳による異常検知(未実行・無進捗・多重起動の検出)
  • 異常の押し出し通知(人が画面を見に行かなくても異常が届く運用)
  • 判定不能を「正常」と表示しない設計(fail-closed)

8エージェント対応設計(拡張計画)

  • 運用手順・データ品質契約・処理台帳のすべてを機械可読な形で整備済み= AI エージェントが読み・確かめ・報告できる基盤
  • AI エージェントによる運用監視の一次対応、データ品質照会、 日次レポート作成支援への段階的な拡張を計画
  • 業務データへの書き込みは承認ゲート経由に限定する設計= エージェント導入後も判断の主体は人間に維持

9その他、実運用に必要な機能(一部実装中)

  • 口座登録・管理機能および与信枠管理機能
  • 約定時の契約管理、清算機能および決済機能
  • ISDA マスター契約のひな型に基づく、顧客ごとの契約書カスタマイズ機能
  • 自己資本比率規制の管理に必要な最大損失額等の算出機能

本プラットフォームは、当社が天候リスクを定量的に理解するために開発・運用している 内部基盤です。プライシングモデルの具体的な仕様・パラメータは非公開としていますが、 データの出所と扱いについてはこちらで公開しています。

掲載画像のうち、契約・ポジションに関わる数値はすべてデモ用の仮想データです。